雑記

岐阜県最古の料亭「州さき」〜高山市のレストラン紹介01〜

2021/09/30

司馬遼太郎も食した高山の味

高山市だけでなく、範囲を岐阜県に広げてもなお「最古の料亭」との冠が付く「料亭 州さき」。1987年当時、小説家・司馬遼太郎も訪れ「週間朝日」の連載「街道をゆく」で、この料亭を紹介している。

その一文に

 「寛政時代からの店ときいたが、土間のぐあいといい、座敷といい、さすがに匠の国の作品らしく気品にみちている」

と、残している。料理の内容や味には触れず、店構えや器など、視点を「州さき」が歩んできた歴史、背景に合わせ、思いを馳せているのが興味深い。現在のweb記事などではまず見られない言葉使いや文章のリズムなどが新鮮だ。

※全文は「州さき」のHP内「お店紹介」に。

 

創業は寛政6年(1794年)。ゆうに200年を超える料亭の味とは、そして店とは。レストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2020」で3トック、「ミシュランガイド」では2つ星の評価を受けていることからも、期待に胸が高鳴る。人流が減っている今を機会と捉え、暖簾をくぐってみることにした。

 「州さき」へ予約の電話、そして当日

予約の希望を伝えるため電話すると、まずは「希望の料理、コース」を予め決めて欲しいと案内いただいた。その日の気分、というよりも席についてメニューを見ながら決めていた僕にとってはなかなか新しい流れだった。

HP上に載っているメニューの中から、僕の分、そして妻の分を決め、再度電話して伝えると「できる限り同じコースでお願いしたい。料理の提供のタイミングが大きくことなってしまうので」とのこと。

なるほど。郷には入れば郷に従えだ。ならばと、再びメニューを眺める。予算もあることなので、日本料理の正式なお膳立てであり、30品ある「本膳(宗和流本膳)」を11品に絞り込んだ「本膳崩し(宗和流本膳崩)」を、更に簡略した「味結び」に決定。かつ魚を肉へと変更というオーダーで予約を完了した。金額は1人8,800円(税込)。普段の僕はランチの金額を、

500円 「安い!」

800円 「いいじゃない!」

1000円 「ん、今日はちょっと贅沢!」

1500円 「おっ、たまには奮発するか!」

2000円〜 「いや〜ちょっと無理…」

こんな感じで考えている。それが、8,800円! 妻の強い希望とはいえ、このコロナ禍。どうしても財布の中身を考えずにはいられない。しかし、ただの昼食ではなく「州さき」を体験するという意味において価値があると考えた。

「州さき」の中へ

せっかくの機会だからと、着物を着た妻。確かに和室に和服は良く調和する。そしてワークパンツにワークジャケットという装いの僕。ちぐはぐさが否めない。

迎えた当日。車を少し離れた駐車場に停め、店の前に着くと、物腰の柔らかな女性が店内へと案内してくれた。暖簾をくぐると、屋外からは想像もつかない別世界が広がっている。200年以上の歴史を伝える重厚な色合いの柱や梁。迷路のように広い室内は、一見ではまず覚えられない。案内されるがままに部屋へ。金森長近公が京の「加茂川(鴨川)」に見立てた、高山市内を流れる「宮川」のせせらぎが室内に届いている。窓の外には小さな庭があり、四季折々の風景を楽しめる。けれど訪れたのは、3月。まだ枝に葉もつかない時期であったから、新緑や紅葉の時期であれば、それはそれは美しい風景になるのであろうと想像する。同時に司馬遼太郎も同じ景色を眺めたとも想像すると、嬉しさが込み上げてくる。

司馬遼太郎

話はそれるが、僕は司馬遼太郎の作品を幾つか読んだ。「竜馬がゆく(全8巻)」、「翔ぶが如く(全10巻)」「新撰組血風録」「峠(上中下)」「燃えよ剣(上下)」。いずれも心に響くものがあったが、中でも「燃えよ剣」には心を助けられた思い出がある。新撰組副長として幕末の動乱期を生きた土方歳三の生涯を描いたものだ。けれど強く心を刺激したのが、彼の生き様というよりも新撰組の隊規・局中法度だった。

20年近く前、部署移動したばかりの僕はとにかく右も左も分からず、大変な日々をおくっていた。後にも先にも仕事で辛い日々だと思ったのは、その時期だけだ。その時に読んだのが「燃えよ剣」。新撰組では隊規・局中法度に違反すると、基本「死」しかない。しかし僕の職場は、どれだけ仕事がうまくいかずとも、切腹を求められることもなければ、剣で斬られることもない。

「あっ、新撰組に比べればぜんぜんたいしたことないや。だって死なないし」

と、歴史小説と現在を比較することで、単純にもびっくりするほど心が軽くなり、仕事が辛くなくなった。小説二冊読むだけでメンタルが改善するなんともコスパのいい僕。そんなこともあり、司馬遼太郎という人を、勝手に恩人だと思っている。

「州さき」の「味結」を味わう

いよいよ料理の時間。僕は普通に旨いものは好きだけれど、高いお金を出してまでいいお店にいくという趣味はないし、なんなら食事にお金をかけるよりもバイクのパーツを買った方が楽しいと思っている人間だ。それだけに普段、レストランなどで料理の写真を撮ることは滅多にない。けれどもここは「州さき」。せっかくの機会だからと、写真を撮ってみたが、やはり料理名は覚えてない。

日常では感じることのない味が続く。すべて「うまい」「うまい」「うまい」と煉獄さんさながら、すべてに「うまい」という他なかった。せっかくなら「宗和流本膳崩」を味わいたいところだったが、それだと1人13,310円(税込)。しかししかし、簡略化された「味結」とはいえ味も量も大満足の料理だった。またいつの日かここで食事をしたいな。そう思った「州さき」体験だった。

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